**炎症(えんしょう)**とは、体内の組織が損傷や感染に対して起こす生理的な反応のことを指します。炎症は免疫系が異物を排除し、損傷した組織を修復するために働く重要なプロセスであり、人体にとって欠かせない防御機構です。
炎症には大きく分けて「急性炎症」と「慢性炎症」の2種類があり、それぞれ役割や健康への影響が異なります。
1. 炎症のメカニズム
炎症は、体が外部からの刺激や内部の異常を認識することで始まります。その流れは以下のように進みます。
(1)刺激の認識
細菌、ウイルス、毒素、物理的な損傷などの刺激を免疫細胞が感知します。特にマクロファージや樹状細胞といった免疫細胞が重要な役割を果たします。
(2)サイトカインの放出
免疫細胞は「サイトカイン」と呼ばれる化学物質を放出し、他の免疫細胞を呼び寄せて炎症反応を誘導します。
(3)血管の拡張と透過性の増加
血管が拡張し、血流が増えることで白血球や栄養素が損傷部位に集まります。これが「赤み」や「腫れ」の原因となります。
(4)免疫細胞の集積
白血球(好中球、マクロファージなど)が炎症部位に集まり、感染の排除や損傷組織の掃除を行います。
(5)修復過程
炎症が収束すると、細胞再生や新しい血管の形成が始まり、成長因子やサイトカインによって修復が進みます。
2. 急性炎症と慢性炎症
炎症は大きく「急性炎症」と「慢性炎症」に分けられます。
急性炎症
- 発生期間:数日から数週間
- 特徴的な症状:赤み、腫れ、熱感、痛み
- 主な原因:感染症や外傷
- 役割:体を守る正常な防御反応
慢性炎症
- 発生期間:数か月から数年と長期にわたる
- 主な原因:自己免疫疾患、長期感染、喫煙、肥満など
- 健康への影響:がん、心血管疾患、糖尿病などの生活習慣病リスクを高める
3. 炎症の主な症状
炎症が起きると以下のような典型的な症状が現れます。
- 赤み:血管の拡張による血流増加
- 腫れ:血管の透過性が増し、液体が組織に漏れることで発生
- 熱感:炎症部位の血流増加により温度が上がる
- 痛み:炎症性物質が神経を刺激することによって生じる
急性炎症の場合は多くが自然に収束しますが、慢性炎症では症状が長期間続き、病気の原因となる場合があります。
4. 炎症と健康への影響
炎症は一時的には体を守るために必要ですが、慢性的に続くとさまざまな病気につながることが知られています。
- 自己免疫疾患:関節リウマチや全身性エリテマトーデス(ループス)などでは、自分の組織を攻撃するため炎症が慢性化します。
- 心血管疾患:動脈硬化の進行に炎症が関与し、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まります。
- がん:慢性的な炎症は細胞の遺伝子に変異を引き起こし、発がんリスクを高めます。
5. 炎症の管理と予防方法
炎症を適切にコントロールするためには、薬物治療と生活習慣の改善が重要です。
(1)薬物治療
- NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬):痛みや炎症を抑える
- コルチコステロイド:強力に炎症を抑制
(2)生活習慣の改善
- 食事:抗酸化物質を含む野菜や果物、オメガ3脂肪酸を多く含む魚を積極的に摂取
- 運動:適度な有酸素運動は炎症を抑える効果が期待できる
- ストレス管理:過剰なストレスは炎症を悪化させるため、リラックスや休養も大切
(3)医療管理
慢性炎症が疑われる場合は、基礎疾患の治療や定期的な健康診断を受けることが予防につながります。
まとめ
炎症とは、体が損傷や感染に対して起こす防御反応であり、短期的には健康を守る重要なプロセスです。しかし、炎症が慢性化すると心血管疾患やがんなど重大な病気のリスクを高める可能性があります。
急性炎症は自然に治まることが多い一方、慢性炎症は生活習慣病や自己免疫疾患の背景に存在しているケースも少なくありません。そのため、抗炎症薬の適切な使用や生活習慣の改善、定期的な健康チェックが欠かせません。
日常生活においては、バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、ストレスの軽減を心がけることで、炎症の予防と健康維持につながります。